からぬ如き行儀を互に有《も》たぬ同士であるから、遠慮無く寂心は安詳《あんじょう》にあちこちを見廻った。源信は何処にも居なかった。やがて、ここぞと思う室《へや》の戸を寂心は引開けた。すると是《こ》は如何に、眼の前は茫々漠々《ぼうぼうばくばく》として何一ツ見えず、イヤ何一ツ見えないのでは無い、唯是れ漫々洋々として、大河《だいが》の如く大湖の如く大海《だいかい》の如く、※[#「さんずい+猗」、第3水準1−87−6]々《いい》たり瀲々《れんれん》たり、汪々《おうおう》たり滔々《とうとう》たり、洶《きょう》たり沸《ふつ》たり、煙波|糢糊《もこ》、水光天に接するばかり、何も無くして水ばかりであった。寂心は後《あと》へ一[#(ト)]足引いたが、恰《あたか》もそこに在った木枕を取って中へ打込み、さらりと戸をしめて院外へ出て帰ってしまった。源信はそれから身痛を覚えた。寂心が来て卒爾《そつじ》の戯れをしたことが分って、源信はふたたび水を現じて、寂心に其中へ投げ入れたものを除去させた。源信はもとの如くになった。
 此の談は今の人には、ただ是れ無茶苦茶の譚《だん》と聞えるまでであろう。又これを理解のゆくように
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