人々も、皆文時に請《こ》いて其文章詞賦の斧正《ふせい》を受けたということである。ある時御内宴が催されて、詞臣等をして、|宮鶯囀[#二]暁光[#一]《きゅうおうぎょうこうにさえずる》いう題を以て詩を賦せしめられた。天皇も文雅の道にいたく御心を寄せられたこととて、
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露は濃《こま》やかにして 緩く語る 園花の底、
月は落ちて 高く歌ふ 御柳《ぎよりう》の陰。
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という句を得たまいて、ひそかに御懐《ぎょかい》に協《かな》いたるよう思《おぼ》したまいたる時、文時もまた句を得て、
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西の楼 月 落ちたり 花の間《あいだ》の曲、
中殿 灯《ともしび》 残《き》えんとす 竹の裏《うち》の声。
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と、つらねた。天皇聞しめして、我こそ此題は作りぬきたりと思いしに、文時が作れるも又すぐれたりと思召《おぼしめ》して、文時を近々と召して、いずれか宜しきや、と仰せられた。文時は、御製《ぎょせい》いみじく、下七字は文時が詩にも優れて候、と申した。これは憚《はばか》りて申すならんと、ふたたび押返し御尋ねに
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