言葉に従って春久は相手になると、十目ばかり互に石を下した時、よしよしもはや打つまい、と云って押し壊《やぶ》ってしまった。春久は恐る恐る、何とて碁をば打給いし、と問うと、何にもなし、小法師なりし時、人の碁打つを見しが、今念仏唱えながら、心に其が思いうかびしかば、碁を打たばやと思いて打ったるまでぞ、と何事も無き気配だった。又、泥障《あおり》一[#(ト)]懸《かけ》持《もて》来《きた》れ、という。馬の泥障などは、臨終近き人に何の要あるべきものでも無く、寺院の物でもないが、とにかく取寄せて持来ると、身を掻抱《かいいだ》かせて起上り、それを結びて吾が頸《くび》に懸けよ、という。是非なく言葉の如くにすると、増賀は強いておのが左右の肱《ひじ》を指延べて、それを身の翼のようになし、古泥障を纏《まと》いてぞ舞う、と云って二三度ふたふたとさせて、これ取去れ、と云った。取去って後、春久は、これは何したまえる、と恐る恐る問うと、若かりし頃、隣の房に小法師ばらの多く有りて笑い罵《ののし》れるを覗きて見しに、一人の小法師、泥障を頸に懸けて、胡蝶《こちょう》胡蝶とぞ人は云えども古泥障を頸にかけてぞ舞うと歌いて舞いし
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