じ》、空寒き奥州《おうしゅう》にまで帰る事は云《い》わずに旅立《たびだち》玉う離別《わかれ》には、是《これ》を出世の御発途《おんかどいで》と義理で暁《さと》して雄々《おお》しき詞《ことば》を、口に云わする心が真情《まこと》か、狭き女の胸に余りて案じ過《すご》せば潤《うる》む眼《め》の、涙が無理かと、粋《すい》ほど迷う道多くて自分ながら思い分たず、うろ/\する内《うち》日は消《たち》て愈※[#二の字点、1−2−22]《いよいよ》となり、義経袴《よしつねばかま》に男山《おとこやま》八幡《はちまん》の守りくけ込んで愚《おろか》なと笑《わらい》片頬《かたほ》に叱《しか》られし昨日《きのう》の声はまだ耳に残るに、今、今の御姿《おすがた》はもう一里先か、エヽせめては一日路《いちにちじ》程も見透《みとお》したきを役|立《たた》ぬ此眼の腹|立《だた》しやと門辺《かどべ》に伸び上《あが》りての甲斐《かい》なき繰言《くりごと》それも尤《もっとも》なりき。一《ひ》ト月過ぎ二《ふ》タ月|過《すぎ》ても此《この》恨《うらみ》綿々《めんめん》ろう/\として、筑紫琴《つくしごと》習う隣家《となり》の妓《こ》がうたう
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