とわり》をのがれず、梅岡《うめおか》何某《なにがし》と呼ばれし中国浪人のきりゝとして男らしきに契《ちぎり》を込め、浅からぬ中となりしより他《よそ》の恋をば贔負《ひいき》にする客もなく、線香の煙り絶々《たえだえ》になるにつけても、よしやわざくれ身は朝顔のと短き命、捨撥《すてばち》にしてからは恐ろしき者にいうなる新徴組《しんちょうぐみ》何の怖《こわ》い事なく三筋《みすじ》取っても一筋心《ひとすじごころ》に君さま大事と、時を憚《はばか》り世を忍ぶ男を隠匿《かくまい》し半年あまり、苦労の中にも助《たすく》る神の結び玉《たま》いし縁なれや嬉しき情《なさけ》の胤《たね》を宿して帯の祝い芽出度《めでたく》舒《の》びし眉間《みけん》に忽《たちま》ち皺《しわ》の浪《なみ》立《たち》て騒がしき鳥羽《とば》伏見《ふしみ》の戦争。さても方様《かたさま》の憎い程な気強さ、爰《ここ》なり丈夫《おとこ》の志を遂《と》ぐるはと一《ひ》ト群《むれ》の同志《どうし》を率いて官軍に加わらんとし玉うを止《とど》むるにはあらねど生死《しょうじ》争う修羅《しゅら》の巷《ちまた》に踏《ふみ》入《い》りて、雲のあなたの吾妻里《あづま
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