暫《しばら》く眺《なが》めたるこそ愚《おろか》なれ。吉兵衛の詞《ことば》気になりて開く新聞、岩沼令嬢と業平侯爵《なりひらこうしゃく》と題せる所をふと読下せば、深山《みやま》の美玉都門《びぎょくともん》に入《いっ》てより三千の※[#「石+武」、第4水準2−82−42]※[#「石+夫、第4水準2−82−31]《ぶふ》に顔色なからしめたる評判|嘖々《さくさく》たりし当代の佳人岩沼令嬢には幾多の公子豪商熱血を頭脳に潮《ちょう》して其《その》一顰一笑《いっぴんいっしょう》を得んと欲《ほっ》せしが預《かね》て今業平《いまなりひら》と世評ある某侯爵は終《つい》に子爵の許諾《ゆるし》を経て近々結婚せらるゝよし侯爵は英敏閑雅今業平の称|空《むな》しからざる好男子なるは人の知所《しるところ》なれば令嬢の艶福《えんぷく》多い哉《かな》侯爵の艶福も亦《また》多い哉《かな》艶福万歳|羨望《せんぼう》の到《いたり》に勝《たえ》ず、と見る/\面色赤くなり青くなり新聞紙|引裂《ひきさき》捨《す》て何処《いづく》ともなく打付《うちつけ》たり。
下 恋恋恋《れんれんれん》、恋《こい》は金剛不壊《こんごうふえ
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