えの心から製《こしら》えた影法師におまえが惚《ほ》れて居る計《ばか》り、お辰の像に後光まで付《つけ》た所では、天晴《あっぱれ》女菩薩《にょぼさつ》とも信仰して居らるゝか知らねど、影法師じゃ/\、お辰めはそんな気高く優美な女ならずと、此爺《このじい》も今日悟って憎くなった迷うな/\、爰《ここ》にある新聞を読《よ》め、と初《はじめ》は手丁寧後は粗放《そほう》の詞《ことば》づかい、散々にこなされて。おのれ爺《じじい》め、えせ物知《ものしり》の恋の講釈、いとし女房をお辰めお辰めと呼捨《よびすて》片腹痛しと睨《にら》みながら、其事《そのこと》の返辞はせず、昨日頼み置《おき》し胡粉《ごふん》出来て居るかと刷毛《はけ》諸共《もろとも》に引※[#「怨」の「心」に代えて「手」、第4水準2−13−4]《ひきもぐ》ように受取り、新聞懐中して止むるをきかず突《つ》と立《たっ》て畳ざわりあらく、馴《なれ》し破屋《あばらや》に駈戻《かけもど》りぬるが、優然として長閑《のどか》に立《たて》る風流仏《ふうりゅうぶつ》見るより怒《いかり》も収り、何はさておき色合程よく仮に塗上《ぬりあげ》て、柱にもたれ安坐《あんざ》して
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