二|相《そう》も揃《そろ》い御声《おんこえ》は鶯《うぐいす》に美音錠《びおんじょう》飲ましたよりまだ清く、御心《ごしん》もじ広大|無暗《むやみ》に拙者《せっしゃ》を可愛《かわゆ》がって下さる結構|尽《づく》め故《ゆえ》堪忍ならずと、車を横に押し親父《おやじ》を勘当しても女房に持つ覚悟|極《き》めて目出度《めでたく》婚礼して見ると自分の妄像《もうぞう》ほど真物《ほんもの》は面白からず、領脚《えりあし》が坊主《ぼうず》で、乳の下に焼芋の焦《こげ》た様《よう》の痣《あざ》あらわれ、然も紙屑屋《かみくずや》とさもしき議論致されては意気な声も聞《きき》たくなく、印付《しるしつき》の花合《はなあわ》せ負《まけ》ても平気なるには寛容《おおよう》なる御心《おこころ》却《かえ》って迷惑、どうして此様《このよう》な雌《めす》を配偶《つれあい》にしたかと後悔するが天下半分の大切《おおぎり》、真実《まこと》を云《いえ》ば一尺の尺度《ものさし》が二尺の影となって映る通り、自分の心という燈《ともしび》から、さほどにもなき女の影を天人じゃと思いなして、恋も恨《うらみ》もあるもの、お辰めとても其如《そのごと》く、おま
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