参《まいり》して御先祖様の墓に樒《しきみ》一束|手向《たむく》る易《やす》さより孫娘に友禅《ゆうぜん》を買《かっ》て着《きせ》る苦しい方が却《かえっ》て仕易《しやす》いから不思議だ、損徳を算盤《そろばん》ではじき出したら、珠運が一身|二一添作《にいちてんさく》の五も六もなく出立《しゅったつ》が徳と極るであろうが、人情の秤目《はかりめ》に懸《かけ》ては、魂の分銅《ふんどう》次第、三五《さんご》が十八にもなりて揚屋酒《あげやざけ》一猪口《ひとちょく》が弗箱《ドルばこ》より重く、色には目なし無二|無三《むざん》、身代《しんだい》の釣合《つりあい》滅茶苦茶《めちゃくちゃ》にする男も世に多いわ、おまえの、イヤ、あなたの迷《まよい》も矢張《やっぱり》人情、そこであなたの合点《がてん》の行様《ゆくよう》、年の功という眼鏡《めがね》をかけてよく/\曲者《くせもの》の恋の正体を見届た所を話しまして、お辰めを思い切《きら》せましょう。先《まず》第一に何を可愛《かわゆ》がって誰《たれ》を慕《した》うのやら、調べて見ると余程おかしな者、爺の考《かんがえ》では恐らく女に溺《おぼ》れる男も男に眩《くら》[#「眩」
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