から覗《のぞ》けば像も見事に出来た様子、此《この》上長く此地に居《いら》れても詰りあなたの徳にもならずと、お辰憎くなるに付《つけ》てお前|可愛《かわゆ》く、真から底から正直におまえ、ドッコイあなたの行末にも良様《よいよう》昨夕《ゆうべ》聢《しか》と考えて見たが、何《どう》でも詰らぬ恋を商買《しょうばい》道具の一刀に斬《きっ》て捨《すて》、横道入らずに奈良へでも西洋へでも行《ゆか》れた方が良い、婚礼なぞ勧めたは爺が一生の誤り、外に悪い事|仕《し》た覚《おぼえ》はないが、是《これ》が罪になって地獄の鉄札《てっさつ》にでも書《かか》れはせぬかと、今朝《けさ》も仏様に朝茶|上《あげ》る時|懺悔《ざんげ》しましたから、爺が勧めて爺が廃《よ》せというは黐竿《もちざお》握らせて殺生《せっしょう》を禁ずる様《よう》な者で真に云憎《いいにく》き意見なれど、此《ここ》を我慢して謝罪《わび》がてら正直にお辰めを思い切れと云う事、今度こそはまちがった理屈ではないが、人間は活物《いきもの》杓子定規《しゃくしじょうぎ》の理屈で平押《ひらおし》には行《ゆか》ず、人情とか何とか中々むずかしい者があって、遠くも無い寺|
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