《かめや》へ行けば吉兵衛|待兼顔《まちかねがお》に挨拶して奥の一間へ導き、扨《さて》珠運《しゅうん》様、あなたの逗留《とうりゅう》も既に長い事、あれ程|有《あり》し雪も大抵は消《きえ》て仕舞《しまい》ました、此頃《このごろ》の天気の快《よ》さ、旅路もさのみ苦しゅうはなし其道《そのみち》勉強の為《ため》に諸国|行脚《あんぎゃ》なさるゝ身で、今の時候にくすぶりて計《ばか》り居らるるは損という者、それもこれも承知せぬでは無《なか》ろうが若い人の癖とてあのお辰《たつ》に心を奪《うばわ》れ、然《しか》も取残された恨《うらみ》はなく、その木像まで刻むと云《いう》は恋に親切で世間に疎《うと》い唐土《もろこし》の天子様が反魂香《はんごんこう》焼《たか》れた様《よう》な白痴《たわけ》と悪口を叩《たた》くはおまえの為を思うから、実はお辰めに逢《あ》わぬ昔と諦《あき》らめて奈良へ修業に行《いっ》て、天晴《あっぱれ》名人となられ、仮初《かりそめ》ながら知合《しりあい》となった爺《じい》の耳へもあなたの良《よい》評判を聞せて貰《もら》い度《た》い、然し何もあなたを追立《おいたて》る訳ではないが、昨日もチラリト窓
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