の冑《かぶと》だか、粟《あわ》八升も入る紙袋《かんぶくろ》だかをスポリと被《かぶ》せられ、方角さらに分らねば頻《しきり》と眼玉を溌々《ぱちぱち》したらば、夜具の袖《そで》に首を突込《つっこ》んで居たりけりさ、今の世の勝頼《かつより》さま、チト御驕《おおご》りなされ、アハヽヽと笑い転《ころ》げて其儘《そのまま》坐敷《ざしき》をすべり出《いで》しが、跡は却《かえっ》て弥《いや》寂《さび》しく、今の話にいとゞ恋しさまさりて、其事《そのこと》彼事《かのこと》寂然《じゃくねん》と柱に※[#「憑」の「心」に代えて「几」、第4水準2−3−20]《もた》れながら思ううち、瞼《まぶた》自然とふさぐ時あり/\とお辰の姿、やれまてと手を伸《のば》して裙《すそ》捉《とら》えんとするを、果敢《はか》なや、幻の空に消えて遺《のこ》るは恨《うらみ》許《ばか》り、爰《ここ》にせめては其|面影《おもかげ》現《うつつ》に止《とど》めんと思いたち、亀屋の亭主《ていしゅ》に心|添《そえ》られたるとは知らで自《みずから》善事《よきこと》考え出《いだ》せし様《よう》に吉兵衛に相談すれば、さて無理ならぬ望み、閑静なる一間《ひとま》
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