辰様が再度《また》花漬売にならるゝ瀬も無《なか》るべければ、詰りあなたの無理な御望《おのぞみ》と云者《いうもの》、あなたも否《いや》なのは岩沼令嬢と仰せられて見ると、まさか推して子爵の婿になろうとの思召《おぼしめし》でも御座るまいが、夫婦約束までなさったとて婚礼の済《すみ》たるでもなし、お辰様も今の所ではあなたを恋しがって居らるゝ様子なれど、思想の発達せぬ生《なま》若い者の感情、追付《おっつけ》変って来るには相違ないと殿様の仰せ、行末は似つかわしい御縁を求めて何《いず》れかの貴族の若公《わかぎみ》を納《いれ》らるゝ御積り、是《これ》も人の親の心になって御考《おかんがえ》なされて見たら無理では無いと利発のあなたにはよく御了解《おわかり》で御座りましょう、箇様《かよう》申せばあなたとお辰様の情交《あいなか》を割《さ》く様にも聞えましょうが、花漬売としてこそあなたも約束をなされたれ、詰る所成就|覚束《おぼつか》なき因縁、男らしゅう思い切られたが双方《そのほう》の御為《おため》かと存じます、併《しか》しお辰様には大恩あるあなたを子爵も何でおろそかに思われましょう、されば是等《これら》の餽物《お
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