たん》帰京《かえっ》て二度目にまた丁度《ちょうど》行き着《つき》たる田原が聞《きい》て狼狽《ろうばい》し、吾《わが》書捨《かきすて》て室香に紀念《かたみ》と遺《のこ》せし歌、多分そなたが知《しっ》て居るならんと手紙の末に書《かき》し頓智《とんち》に釣《つ》り出《いだ》し、それから無理に訳も聞かせず此処《ここ》まで連《つれ》て来たなれば定めし驚いたでもあろうが少しも恐るゝ事はなし、亀屋の方は又々田原をやって始末する程に是からは岩沼子爵の立派な娘、行儀学問も追々覚えさして天晴《あっぱれ》の婿《むこ》取り、初孫《ういまご》の顔でも見たら夢の中《うち》にそなたの母に逢《あ》っても云訳《いいわけ》があると今からもう嬉《うれし》くてならぬ、それにしても髪とりあげさせ、衣裳《いしょう》着かゆさすれば、先刻《さっき》内々戸の透《すき》から見たとは違って、是程までに美しいそなたを、今まで木綿|布子《ぬのこ》着せて置《おい》た親の耻《はずか》しさ、小間物屋も呼《よば》せたれば追付《おっつけ》来《くる》であろう、櫛《くし》簪《かんざし》何なりと好《すき》なのを取れ、着物も越後屋《えちごや》に望《のぞみ》次第
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