《ながめ》も、細口の花瓶に唯《ただ》二三輪の菊古流しおらしく彼が生《いけ》たるを賞《ほ》め、賞《ほめ》られて二人《ふたり》の微笑《ほほえみ》四畳半に籠《こも》りし時程は、今つくねんと影法師相手に独《ひとり》見る事の面白からず、栄華を誰《たれ》と共に、世も是迄《これまで》と思い切って後妻《のちぞい》を貰《もら》いもせず、さるにても其子|何処《どこ》ぞと種々《さまざま》尋ねたれど漸《ようや》くそなたを里に取りたる事ある嫗《ばば》より、信濃《しなの》の方へ行かれたという噂《うわさ》なりしと聞出《ききいだ》したる計《ばか》り、其筋の人に頼んでも何故《なにゆえ》か分らず、我《われ》外《ほか》に子なければ年老《としおい》る丈《だ》け愈《いよいよ》恋しく信州にのみ三人も家従《けらい》をやって捜《さが》させたるに、辛《から》くも田原が探し出《いだ》して七蔵《しちぞう》という悪者よりそなた貰《もら》い受けんとしたるに、如何《どう》いう訳か邪魔|入《いり》て間もなくそなたは珠運《しゅうん》とか云う詰《つま》らぬ男に、身を救われたる義理づくやら亀屋《かめや》の亭主の圧制やら、急に婚礼するというに、一旦《いっ
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