さては英雄殿もひとり旅の退屈に閉口しての御《おん》わざくれ、おかしき計《ばか》りかあわれに覚えて初対面から膝《ひざ》をくずして語る炬燵《こたつ》に相《あい》宿《やど》の友もなき珠運《しゅうん》、微《かすか》なる埋火《うずみび》に脚を※[#「火+共」、第3水準1−87−42]《あぶ》り、つくねんとして櫓《やぐら》の上に首|投《なげ》かけ、うつら/\となる所へ此方《こなた》をさして来る足音、しとやかなるは踵《かかと》に亀裂《ひび》きらせしさき程の下女にあらず。御免なされと襖《ふすま》越しのやさしき声に胸ときめき、為《し》かけた欠伸《あくび》を半分|噛《か》みて何とも知れぬ返辞をすれば、唐紙《からかみ》する/\と開き丁寧《ていねい》に辞義《じぎ》して、冬の日の木曾路《きそじ》嘸《さぞ》や御疲《おつかれ》に御座りましょうが御覧下され是《これ》は当所の名誉|花漬《はなづけ》今年の夏のあつさをも越して今降る雪の真最中《まっさいちゅう》、色もあせずに居《お》りまする梅桃桜のあだくらべ、御意に入りましたら蔭膳《かげぜん》を信濃《しなの》へ向《む》けて人知らぬ寒さを知られし都の御方《おかた》へ御土産《お
前へ
次へ
全107ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング