《はり》欄間《らんま》の彫りまで見巡《みめぐ》りて鎌倉東京日光も見たり、是より最後の楽《たのしみ》は奈良じゃと急ぎ登り行く碓氷峠《うすいとうげ》の冬|最中《もなか》、雪たけありて裾《すそ》寒き浅間《あさま》下ろしの烈《はげ》しきにめげず臆《おく》せず、名に高き和田《わだ》塩尻《しおじり》を藁沓《わらぐつ》の底に踏み蹂《にじ》り、木曾路《きそじ》に入りて日照山《ひでりやま》桟橋《かけはし》寝覚《ねざめ》後になし須原《すはら》の宿《しゅく》に着《つき》にけり。
[#改ページ]

    第一 如是相《にょぜそう》

      書けぬ所が美しさの第一義諦《だいいちぎたい》

 名物に甘《うま》き物ありて、空腹《すきはら》に須原《すはら》のとろゝ汁殊の外《ほか》妙なるに飯《めし》幾杯か滑り込ませたる身体《からだ》を此尽《このまま》寝さするも毒とは思えど為《す》る事なく、道中日記|注《つ》け終《しま》いて、のつそつしながら煤《すす》びたる行燈《あんどん》の横手の楽落《らくがき》を読《よめ》ば山梨県士族|山本勘介《やまもとかんすけ》大江山《おおえやま》退治の際一泊と禿筆《ちびふで》の跡《あと》、
前へ 次へ
全107ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング