しんどう》のさくれ石足を噛《か》むに生爪《なまづめ》を剥《はが》し悩むを胴慾《どうよく》の車夫法外の価《ね》を貪《むさぼ》り、尚《なお》も並木で五割|酒銭《さかて》は天下の法だとゆする、仇《あだ》もなさけも一日限りの、人情は薄き掛け蒲団《ぶとん》に襟首《えりくび》さむく、待遇《もてなし》は冷《ひややか》な平《ひら》の内《うち》に蒟蒻《こんにゃく》黒し。珠運《しゅうん》素《もと》より貧《まずし》きには馴《な》れても、加茂川《かもがわ》の水柔らかなる所に生長《おいたち》て初《はじめ》て野越え山越えのつらきを覚えし草枕《くさまくら》、露に湿《しめ》りて心細き夢おぼつかなくも馴れし都の空を遶《めぐ》るに無残や郭公《ほととぎす》待《まち》もせぬ耳に眠りを切って破《や》れ戸《ど》の罅隙《すきま》に、我は顔《がお》の明星光りきらめくうら悲しさ、或《ある》は柳散り桐《きり》落《おち》て無常身に染《しみ》る野寺の鐘、つく/″\命は森林《もり》を縫う稲妻のいと続き難き者と観ずるに付《つけ》ても志願を遂ぐる道遠しと意馬《いば》に鞭《むち》打ち励ましつ、漸《ようや》く東海道の名刹《めいさつ》古社に神像木仏|梁
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