え》し腕は愈々《いよいよ》冴《さ》え鋭き刀《とう》は愈《いよいよ》鋭く、七歳の初発心《しょほっしん》二十四の暁に成道《じょうどう》して師匠も是《これ》までなりと許すに珠運は忽《たちま》ち思い立ち独身者《ひとりもの》の気楽さ親譲りの家財を売ってのけ、いざや奈良鎌倉日光に昔の工匠《たくみ》が跡|訪《と》わんと少し許《ばかり》の道具を肩にし、草鞋《わらじ》の紐《ひも》の結いなれで度々解くるを笑われながら、物のあわれも是よりぞ知る旅。
下 苦労は知らず勉強の徳
汽車もある世に、さりとては修業する身の痛ましや、菅笠《すげがさ》は街道の埃《ほこり》に赤うなって肌着《はだぎ》に風呂場《ふろば》の虱《しらみ》を避け得ず、春の日永き畷《なわて》に疲れては蝶《ちょう》うら/\と飛ぶに翼|羨《うらや》ましく、秋の夜は淋《さび》しき床に寝覚《ねざ》めて、隣りの歯ぎしみに魂を驚かす。旅路のなさけなき事、風吹き荒《すさ》み熱砂顔にぶつかる時|眼《め》を閉《ふさ》ぎてあゆめば、邪見《じゃけん》の喇叭《らっぱ》気《き》を注《つ》けろがら/\の馬車に胆《きも》ちゞみあがり、雨降り切《しき》りては新道《
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