女房うるさく異見《いけん》すれば、何の女の知らぬ事、ぴんからきりまで心得て穴熊《あなぐま》毛綱《けづな》の手品《てづま》にかゝる我ならねば負くる計《ばか》りの者にはあらずと駈出《かけだし》して三日帰らず、四日帰らず、或《あるい》は松本善光寺又は飯田《いいだ》高遠《たかとお》あたりの賭場《とば》あるき、負《まく》れば尚《なお》も盗賊《どろぼう》に追い銭の愚を尽し、勝てば飯盛《めしもり》に祝い酒のあぶく銭《ぜに》を費す、此癖《このくせ》止めて止まらぬ春駒《はるごま》の足掻《あがき》早く、坂道を飛び下《おり》るより迅《すみやか》に、親譲りの山も林もなくなりかゝってお吉心配に病死せしより、齢《とし》は僅《わずか》に十《とお》の冬、お辰浮世の悲《かなし》みを知りそめ叔父《おじ》の帰宅《かえ》らぬを困り途方《とほう》に暮れ居たるに、近所の人々、彼奴《きゃつ》め長久保《ながくぼ》のあやしき女の許《もと》に居続《いつづけ》して妻の最期《さいご》を余所《よそ》に見る事憎しとてお辰をあわれみ助け葬式《ともらい》済《すま》したるが、七蔵|此後《こののち》愈《いよいよ》身持《みもち》放埒《ほうらつ》となり、村
前へ
次へ
全107ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング