て独り寝覚《ねざめ》の床淋しく、自ら露霜のやがて消《きえ》ぬべきを悟り、お辰|素性《すじょう》のあらまし慄《ふる》う筆のにじむ墨に覚束《おぼつか》なく認《したた》めて守り袋に父が書き捨《すて》の短冊《たんざく》一《ひ》トひらと共に蔵《おさ》めやりて、明日をもしれぬ我《わ》がなき後頼りなき此子《このこ》、如何《いか》なる境界に落《おつ》るとも加茂《かも》の明神も御憐愍《ごれんみん》あれ、其人《そのひと》命あらば巡《めぐ》り合《あわ》せ玉いて、芸子《げいこ》も女なりやさしき心入れ嬉《うれ》しかりきと、方様の一言《ひとこと》を草葉の蔭《かげ》に聞《きか》せ玉えと、遙拝《ようはい》して閉じたる眼をひらけば、燈火《ともしび》僅《わずか》に蛍《ほたる》の如く、弱き光りの下《もと》に何の夢見て居るか罪のなき寝顔、せめてもう十《とお》計りも大きゅうして銀杏《いちょう》髷《まげ》結わしてから死にたしと袖《そで》を噛《か》みて忍び泣く時お辰|魘《おそ》われてアッと声立て、母様《かかさま》痛いよ/\坊《ぼう》の父様《ととさま》はまだ帰《か》えらないかえ、源《げん》ちゃんが打《ぶ》つから痛いよ、父《とと》の無
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