いのは犬の子だってぶつから痛いよ。オヽ道理《もっとも》じゃと抱き寄すれば其《その》儘《まま》すや/\と睡《ねむ》るいじらしさ、アヽ死なれぬ身の疾病《やまい》、是《これ》ほどなさけなき者あろうか。

      下 子は岩蔭《いわかげ》に咽《むせ》ぶ清水《しみず》よ

 格子戸《こうしど》がら/\とあけて閉《しめ》る音は静《しずか》なり。七蔵《しちぞう》衣装《いしょう》立派に着飾りて顔付高慢くさく、無沙汰《ぶさた》謝《わび》るにはあらで誇り気《げ》に今の身となりし本末を語り、女房《にょうぼう》に都見物|致《いた》させかた/″\御近付《おちかづき》に連《つれ》て参ったと鷹風《おおふう》なる言葉の尾につきて、下ぐる頭《かしら》低くしとやかに。妾《わたくし》めは吉《きち》と申す不束《ふつつか》な田舎者、仕合《しあわ》せに御縁の端に続《つな》がりました上は何卒《なにとぞ》末長く御眼《おめ》かけられて御不勝《ごふしょう》ながら真実《しんみ》の妹とも思《おぼ》しめされて下さりませと、演《のぶ》る口上に樸厚《すなお》なる山家《やまが》育ちのたのもしき所見えて室香《むろか》嬉敷《うれしく》、重き頭《かし
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