此地に来れる由《よし》を報じおきぬ。罪あらば罪を得ん、人間の加え得る罪は何かあらん。事を決する元来|癰《よう》を截《き》るがごとし、多少の痛苦は忍ぶべきのみ。此地の温泉は今春以来かく大きなる旅館なども設けらるるようなりしにて、箱館《はこだて》と相関聯《あいかんれん》して今後とも盛衰《せいすい》すべき好位置に在り。眺望《ちょうぼう》のこれと指して云うべきも無けれど、かの市より此地まであるいは海浜《かいひん》に沿《そ》いあるいは田圃《たんぼ》を過ぐる路《みち》の興も無きにはあらず、空気|殊《こと》に良好なる心地して自然と愉快《ゆかい》を感ず。林長館といえるに宿りしが客あしらいも軽薄《けいはく》ならで、いと頼《たの》もしく思いたり。
三十日、清閑《せいかん》独り書を読む。
三十一日、微雨《びう》、いよいよ読書に妙《みょう》なり。
九月一日、館主と共に近き海岸に到りて鰮魚《いわし》を漁する態を観《み》る。海浜に浜小屋《はまごや》というもの、東京の長家《ながや》めきて一列に建てられたるを初めて見たり。
二日、無事。
三日、午後箱館に至りキトに一宿す。
四日、初めて耕海入道と号する紀州
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