だて》に着き、直《ただ》ちに上陸してこの港のキトに宿りぬ。建築《けんちく》半ばなれども室広く器物清くして待遇《たいぐう》あしからず、いと心地よし。
二十九日、市中を散歩するにわずか二年余見ざりしうちに、著しく家列《いえなら》びもよく道路も美しくなり、大町末広町なんどおさおさ東京にも劣《おと》るべからず。公園のみは寒気強きところなれば樹木の勢いもよからで、山水の眺《なが》めはありながら何となく飽《あ》かぬ心地すれど、一切の便利は備わりありて商家の繁盛《はんじょう》云《い》うばかり無し。客窓の徒然《つれづれ》を慰《なぐさ》むるよすがにもと眼にあたりしままジグビー、グランドを、文魁堂《ぶんかいどう》とやら云える舗《みせ》にて購《こ》うて帰りぬ。午後、我がせし狼藉《ろうぜき》の行為《こうい》のため、憚《はばか》る筋の人に捕《とら》えられてさまざまに説諭《せつゆ》を加えられたり。されどもいささか思い定むるよし心中にあれば頑《がん》として屈《くっ》せず、他の好意をば無になして辞して帰るやいなや、直ちに三里ほど隔《へだ》たれる湯の川温泉というに到《いた》り、しこうして封書《ふうしょ》を友人に送り、
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