餅《もち》を食いながら行く心の中いと悲しく、銭あらば銭あらばと思いつつようよう進むに、足の疲れはいよいよ甚しく、時には犬に取り巻かれ人に誰何《すいか》せられて、辛《から》くも払暁《あけがた》郡山に達しけるが、二本松郡山の間にては幾度《いくど》か憩《いこ》いけるに、初めは路の傍《かたわら》の草あるところに腰《こし》を休めなどせしも、次には路央《みちなか》に蝙蝠傘《こうもりがさ》を投じてその上に腰を休むるようになり、ついには大の字をなして天を仰ぎつつ地上に身を横たえ、額を照らす月光に浴して、他年のたれ死をする時あらば大抵《たいてい》かかる光景ならんと、悲しき想像なんどを起すようなりぬ。
二十九日、汽車の中に困悶《こんもん》して僅《わず》かに睡《ねむ》り、午後東京に辛《から》くも着きぬ。久しく見ざれば停車場より我が家までの間の景色さえ変りて、愴然《そうぜん》たる感いと深く、父上母上の我が思いなしにやいたく老いたまいたる、祖母上《ばばうえ》のこの四五日前より中風とやらに罹《かか》りたまえりとて、身動きも得《え》したまわず病蓐《びょうじょく》の上に苦しみいたまえるには、いよいよ心も心ならず驚《
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