ぞなりける。腹はたてども飯ばかり喰いぬ。
[#ここから2字下げ]
鳥目《ちょうもく》を種なしにした残念さ
うっかり買《かっ》たくされ卵子《たまご》に
やす玉子きみもみだれてながるめり
知りなば惜《お》しき銭をすてむや
[#ここで字下げ終わり]
これより行く手に名高き浪打峠《なみうちとうげ》にかかる。末の松山を此地という説もあり。いずれに行くとも三十里余りを経《へ》ずば海に遇《あ》うことはなり難かるべし。但《ただ》し貝の化石は湯田というところよりいづるよしにて処々《ところどころ》に売る家あり、なかなか価安からず。かくてすすむほどに山路に入りこみて、鬱蒼《うっそう》たる樹、潺湲《せんかん》たる水のほか人にもあわず、しばらく道に坐《ざ》して人の来るを待ち、一ノ戸[#「一ノ戸」の「ノ」は小書き]まで何ほどあるやと問うに、十五里ばかりと答う。駭然《がいぜん》として夢か覚《うつつ》か狐子《こし》に騙《へん》せらるるなからむやと思えども、なお勇気を奮《ふる》いてすすむに、答えし男急に呼《よ》びとめて、いずかたへ行くやと云う。不思議に思いて、一の戸に行くなりと生《なま》いらえするに、
前へ
次へ
全22ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング