ひ給ひしにやと問ふ。然《さ》なりと答ふれば、何処《いづこ》にて求め給ひしやと云ふ。汝《そなた》が嘗て我に誇り示したる鮒釣の竿を購《か》ひし家にてと云へば、弟は羨ましげに眼を光らせて左視右視《とみかうみ》暫らく打護り居けるが、やがて大きなる声して、良き竿を購《か》ひ給ひしかな、かくては明日の釣りに兄上最も多く魚を獲給ふべし、我等は遠く及ぶべからず、されど其《そ》は兄上の釣り給ふこと我等より巧みなるがためにはあらず、竿の力、装置《しかけ》の力の為ならんのみ、我等にも是の如き竿と装置《しかけ》とだにあらば、やはか兄上に劣るべきと、喞言がましく云ひ罵る。然《さ》ばかり明日の釣りに負けまじと思はば汝も新に良き竿を求めよかしと云へば、雀躍《こをどり》して立出で行きしが、時経て帰り来りしを見れば、おもしろからぬ色をなせり。如何にせしぞと問ふに、売りまゐらすべきもの無ければ七八日過ぎて後来玉へと彼の家にて云はれたりと、云ふ声さへもやゝ沈めり。然《さ》ありしか弟、さて釣竿買はで帰りしかと云へば、力無げに、然なりと云ふ。望を失ひて勢抜け、頭を垂れて物思へるさま、傍より観ていと哀れなれば、然《さ》のみ心を屈
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