能く耐ふる力の八方に同じきなど、用ゐざるに既《はや》其|効《かひ》もおもひ遣らるゝまでなり。嬉しきはそれのみならず、竿の長さは鼠頭魚釣りに用うべき竿の大概《おほよそ》の定めの長さ一丈一尺だけ有りながら、其重さの旧《もと》より用ゐしものに比べてはいと軽きもまた好ましき一つなれば、我が心全く足りて之を購《か》ひつ、次《ついで》を以て我が知らぬ新しき事もやあらんと装置《しかけ》をも一ト揃購ひぬ。
 綸、天蚕糸《てぐす》など異りたること無し。鉤もまた昔ながらの狐形と袖形となり。たゞ鉛錘《おもり》は近来《ちかごろ》の考に成りたる由にて、「にっける」の薄板を被《き》せたれば光り輝きて美し。さては外国《とつくに》の人の誤つて銀の匙を水に落せし時魚の集り来りしを見て考へつきしといふ、光りあるものの付きたる鉤と同じく、これも光りに寄る魚の性に基づきたるなるべしなんど思ひつゝ、家に帰る路すがら、雲立ちたる空を仰ぎて、今はたゞ明日の雨ふらざらんことをのみ祈りける。
 其日昼過ぐる頃、弟は学校より帰り来りて、おのれが釣竿、装置《しかけ》など検めゐしが、見おぼえぬ竿のあるを見出して、此《こ》は兄上の新に購《か》
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