2−22、163−17]数多く飾り立てられたるならんとは誰人も先づ想ふべけれど、打見たるところにては品物なども眼に入らぬほど少く、店と云はんよりは細工場と云ふべきさまなるも、深く蔵して無きが如くすといふ語さへ思ひ合はされてゆかし。主人《あるじ》に打向ひて、鼠頭魚釣りに用うべき竿を得たしと云へば、日をさへ仮し玉はば好み玉はんまゝ如何様にも作りまゐらすべけれど、今直ちに欲しとの仰せならば参らすべきはたゞ二本よりほか無し、其中にて好きかたを択み取りたまふべしと答ふ。如何で然《さ》は竿の数乏しきやと問へば、主人の子なるべし年若くして清らなる男、随つて成れば随つて人の需め去るまゝ常に是の如し、御心に飽くほどのものを得玉はんとならば、極めて細《こまか》に兎せよ角せよと命じたまへといふ。良工の家なれば滞貨無きも宜《むべ》なり、特に我が好めるやうに作らせんは甚だ可なるに似たれど、実は我が知れるところよりも此家《ここ》の主人の知れる所の方深くして博かるべきは云ふまでも無きに、我は顔して浅はかなる好みを云ひ出でんも羞かし、且は日も逼りたれば是は寧ろ此家の主人が良しと思ひて作り置けるものを良しとして購《か》
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