あらねど、「きゃたつ」に騎りて唯一人静かに綸を下すを常の事とす。仮にも酒など用ゐて笑ひさゞめきながら釣るが如きことは、此遊びには叶はぬことなり。されど中川寄りの人※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、172−16]は一人乗の小舟を漕ぎ出して、こゝぞと思ふところに碇を下し、いと静かにして釣るに、其獲るところ必しも「きゃたつ」釣りに劣らずといふ。そは舟も髫髪児《うなゐこ》が流れに浮くる笹舟の如くさゝやかにして、浪の舟腹打つ音すら、するかせぬかといふ程なるより、魚も流石に嫌はぬなるべし。白鼠頭魚はかく「きゃたつ」に騎るなどといふこと無く、一つ船の中にて親子妹脊打語らひながら釣るべければ、女など伴はんには白鼠頭魚釣りをよしとするとぞ。
 さて舟子は既《はや》「きゃたつ」を海の中にたてゝ、餌匣《えばこ》と※[#「※」は「たけかんむり+令」、第3水準1−89−59、173−5]※[#「※」は「たけかんむり+省」、第4水準2−83−57、173−5]とを連ねたるものをも其に結ひつけ終りければ、弟先づ釣竿を携へて「きゃたつ」に上り、兄上羨みたまふな、必ず数多く釣りて見せまうすべしと誇る。舟
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