。声を放つて漁夫の詞を誦して、素髪風に随《まか》せて揚げ遠心雲と与に遊ぶといふに至つて、立つて舞はんと欲しぬ。
今さら云はんはいと烏滸なれど、都は流石に都なるかな。昨夜の雨に大かたの人は望みを絶ちたるなるべければ、今日は釣る人の幾干《いくばく》もあらじと思ひけるに、釣るべきところに来りて見れば釣り舟の数もいと多くして、なか/\数へ得べくもあらぬまでおびたゞしく、秋の木の葉と散り浮きたるさま、喩へば源平屋島の戦ひを画に見る如し。あゝ都なればこそ、都なればこそと、そゞろに都の大なるを感ずるも、あながち我がおろかなるよりのみにはあらで、其処に臨みて其様を見ば何人も起すべき思ひなるべし。
舟子はやがて好しと思ふところに船をとゞめて、※[#「※」は「ふねへん+首」、第4水準2−85−77、172−11]に積み来りし「きゃたつ」を海の中におろす。「きゃたつ」は高さ一間あまりもあるべし、裾広がりなる梯二つを頂にて合せ、海中にはだかり立ちて、其上に人を騎らしむるやう造りたるものなり。およそ青鼠頭魚は物音を嫌ひ、物影の揺ぐをも好まざるまで神経《こゝろ》敏《はや》きものなれば、船にて釣ることも無きには
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