り。傘さゝでもあるべき雨、堤の樹※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、169−16]の梢に音さするまでならぬ風、おぼろげなる星の光、人顔定かならぬ明るさなど、なか/\にめでたき払曉《あけがた》のおもむきを味はひて、歌もがななんど思ひつゝ例の長き堤を辿る。おのれは竿を肩にし、弟は食料を提げ、父上は※[#「※」は「たけかんむり+令」、第3水準1−89−59、170−2]※[#「※」は「たけかんむり+省」、第4水準2−83−57、170−2]を持ち玉ひつゝ、折※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、170−2]おつる樹の下露に湿るゝも厭はず三人して川添ひを行くに、水の面は霧立ち罩めて今戸浅草は夢のやうに淡く、川幅も常よりは濶※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、170−3]と見ゆる中を、篝火焚きつゝいと長き筏の流れ下るさまなど、画にも描くべくおもしろし。
枕橋吾妻橋も過ぎて、蔵前通りを南へ、須賀橋といふにさしかゝりける折しも、橋のほとりの交番所にて巡査の誰何するところとなりぬ。唯一ト声、釣りせんとて通るものなりと答へしのみにて、咎めらるゝ事も無く済みけるが
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