程に雨ふるは却つて明日の晴れぬべき兆《しるし》ならんも知るべからず、我が心にては何と無く明日は必ず晴るべきやう思ひ做さるゝなりなどと説き玉ふ。弟も我もこれに聊か頼もしくは思ひながらも、猶板戸打つ雨の音に心悩ましくおぼえて、しぶる/\枕につく。天若し晴れたらんには夜の二時といふに船を出さんとの約束なれば、夢も結ぶか結ばざるに寐醒めて静かに外のさまを考ふるに、雨の音は猶止まず、庭樹の戦《そよぎ》に風さへ有りと知らる。今はこれまでなりと其儘枕に就きたれど、流石に若くは今少時にして晴れもやせんとの心に引かされて、直ちには睡りかね居たるに、思ひは同じ弟も常には似ず眼さとく起き出でゝ、耳を欹てつ何やらん打案じ顔したりしが、やがて腹立たしげに舌打ち一つして、また夜被《よぎ》引かつぎたるさまいとをかしかりければ、思はず知らずふゝと笑ひを洩らす。其声を聞きつけて、兄上も寤め居たまへるや、此雨はまた如何に降りに降る事ぞ、さても口惜からずやと力無く睡気に云ふ。我もあまりの興無さに答へをせんも物憂くて、おゝとのみ応へつ、また睡る。
若くは雨の止むこともあらんとの思ひに心休まらで、睡るとも無く睡らぬとも無く時
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