如きは固より要無き談なりと思ひつ、打出して、かく/\なれば汝の言は取るに足らずと云ふ。弟は弟、兄は兄、互に言ひ募りて少時は争ひしが、さらば明日に至りて我言の誤らぬしるしを見せん、見せまゐらせんと云ふ言葉にて、争ひは已みぬ。
 雨はまた一トしきり木々の梢に音立てゝ降り来り、夜は静かにして灯火黄なり。兄は弟の面を視、弟は兄の面を視て、ものいはぬこと良《やゝ》久し。明日の天《そら》を気づかひて今朝より人※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、168−6]に幾度か尋ね問ひしに、おぼえある人※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、168−7]は皆、今日こそ斯く曇れ明日は必ず雨無かるべしと云ひしが、此のありさまにては晴るゝべくもあらず、空頼めとはかゝる時より云ひ出したる言葉なるべしなどと心の内に喞つ折しも、雨を衝《つい》て父上来玉へり。
 かねて御申しかはせは仕たりしも此の雨にては明日のほども覚束無し、まことに本意《ほい》無《な》くは侍れど心に任せぬは天《そら》の事なり、まづ兎も角も休ませ玉へと云へば、父上は打笑ひ玉ひて、天のさまの測り難きは常の事なれば喞つべからず、されど今斯
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