に中田の竿あれば我に藤作の竿あり、我が拙きか兄上が拙きか、釣りの道の技《わざ》くらべは明日こそとて、鼻息荒く誇る。それには答へで、好し好し、もはや灯火《ともしび》も点《つ》き人※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、167−3]も皆|夜食《ゆふげ》を終へたるに、汝のみ空言《あだごと》言ひ居て腹の膨るゝやらん、まづ/\飯食へと云ひて其竿を見るに、これもなか/\悪《あし》からぬ竿なり。されど我が物は傘の雪をも軽しとし、人の物は正宗にも疵を索むるが傾きやすき我等の心なれば、我は我が竿を良しといひ、弟はまたおのれのを良しと云ひて、互ひに視誉《みほ》め手誉めを敢てす。弟また袂より紙包みにしたる一の鉛錐を取り出して、兄上が購《か》ひ来玉ひし品は「にっける」を被《き》せたれば、陸にては甚《よ》く輝けど、水の中にては黒みて見ゆる気味ありて魚の眼を惹くこと少しとなり、我が購ひ来しは銀色なせる梨子肌のものなれば、陸にては輝かねど水の中にては白く見えて却つて魚の眼を惹くこと多かるべしとなり、且兄上がのは円※[#「※」は「つちへん+壽」、第3水準1−15−67、167−10]形にして我がものは球形な
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