ものにせねばならぬものである。喩へば吾人の子供を吾人が哀※[#二の字点、1−2−22]劬労して育て上げねばならぬのと同じことである。まして地震学の如きは、まだ幼い学科である。そして黴菌学なんぞの如くに研究者も研究の保護促進をする者も多く無いのである。これに対つて徒らに其功無きを責むるのは、所謂※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]卵に対つて其暁を報ぜざるを責むるの痴である。科学一点張りの崇拝も自分は厭ふが、科学慢侮も実に厭はしい。科学は十分に尊敬し、十分に愛護し、そして其の生長して偉才卓能をあらはすのを衷心より歓迎せねばならぬ。
 明治の末年の大洪水に先だつて、忌はしい謡が行はれた。それは今でも明記して居る人が有らうが、「たんたん、たん/\、田の中で……」といふ謡で、「おッかあも……田螺《たにし》も呆れて蓋をする」といふのであつた。謡の意は婦人もまた裳裾を※[#「寨」の「木」に代えて「衣」、第3水準1−91−84]《かゝ》げて水を渉《わた》るに至つて其影悪むべく、田螺も呆れて蓋をするといふのである。其謡は何人が作つたか知らぬが、童幼皆これを口にするに及んで、俄然として江東大水、家流
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