る光はあらはれ、然るべき人は世にかくれ、つまらぬ者は時めき、そして、其戸を※[#「門<規」、第3水準1−93−57]《うかが》へば闃《げき》として其れ人|无《な》し、三歳|覿《み》えず、凶なりといふやうになつてしまふ。震前の社会のさまは、このやうでは無かつたか。今はもう言つて甲斐なきことだ。たゞ恐懼修省の工夫を為すべきである。懼れて慎み、慎みて誠ならば、修省の道はおのづから目前に在り足下に現はるべきである。修省すれば福来り幸《さいはひ》至るは自然の理である。慢心や笑容を去つて、粛然たる気合《きあひ》になれば、悪いことは生ずべきで無い。
地震学はまだ幼い学問である。然るに、あれだけの大災に予知が出来無かつたの、測震器なんぞは玩器《おもちや》同様な物であつたのと難ずるのは、余りに没分暁漢《わからずや》の言である。強震大震の多い我邦の如き国に於てこそ地震学は発達すべきである。諸外国より其智識も其器械も歩を進めて、世界学界に貢献すべきである。科学に対して理解を欠き、科学の功の大ならざるを見る時は、忽ちに軽侮漫罵の念を生ずるのは、口惜しい悪風である。科学は吾人の盛り上げ育て上げて、そして立派な
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