る場合に、何を渋らるるか、此の右膳には奇怪《きっかい》にまで存ぜらる。主家に対する忠義の心の、よもや薄い筈の木沢殿ではござるまいが。」
と責むるが如くに云うと、左京の眼からも青い火が出たようだった。
「若輩の分際として、過言にならぬよう物を言われい。忠義薄きに似たりと言わぬばかりの批判は聞く耳持たぬ。損得利害明白なと、其の損得沙汰を心すずしい貴殿までが言わるるよナ。身ぶるいの出るまで癪《しゃく》にさわり申す。そも損得を云おうなら、善悪邪正《ぜんなくじゃしょう》定まらぬ今の世、人の臣となるは損の又損、大だわけ無器量でも人の主《しゅ》となるが得、次いでは世を棄てて坊主になる了休如きが大の得。貴殿やそれがし如きは損得に眼などが開いて居らぬ者。其損得に掛けて武士道――忠義をごったにし、それはそれ、これはこれと、全く別の事を一ツにして、貴殿の思わくに従えとか。ナニ此の木沢左京が主家を思い敵を悪《にく》む心、貴殿に分寸もおくれ居ろうか、無念骨髄に徹して遺恨|已《や》み難ければこそ、此の企も人先きに起したれ。それを利害損得を知らぬとて、奇怪にまで思わるるとナ。それこそ却《かえ》って奇怪至極。貴殿一人
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