とはそれだけのことじゃ。」
「何故に、然様《さよう》なさりませねばならぬと固くは御思いになりまする?」
「表裏反覆の甚だしい世じゃ。思うても見られい、公方と管領とが総州を攻められた折は何様《どう》じゃ。総州が我《が》を立てたが故に攻められたのじゃ。然るに細川、山名、一色等は公方管領を送り出して置いて、長陣《ながじん》に退屈させて、桂の遊女を陣中に召さするほどに致し置き、おのれ等ゆるゆると大勢《たいぜい》を組揃え、急に起《た》って四方より取囲み、其謀計|合期《ごうご》したれば、管領は御自害ある。留守の者が急に敵になって、出先の者を攻めたでは出先の者の亡びぬ訳は無い。恐ろしい表裏の世じゃ。ましてそれがしが、御身の妻女はこれこれと、其の良からぬことを告げたところで、証拠無ければただ是|讒言《ざんげん》。女の弁舌に云廻されては、男は却《かえ》ってそれがしをこそ怪しき者に思え、何で吾《わ》が妻女を疑い、他人を信としようぞ。惣《そう》じてかかる場合、たといそれがしが其家譜代の郎党であって、忠義かねて知られたものにせよ、斯様の事を迂闊《うかつ》に云出さば、却って逆に不埒者《ふらちもの》に取って落され
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