も、私、このままに見ては居れませぬ。仏とも神とも仰ぎたてまつります。何卒、何卒、御あわれみをもちまして。」
「…………」
「如何様の事でも致しまする。あれさえ御返し下さりょうならば、如何様の事を仰せられましょうと、必ず仰のままに致しまする。何卒、何となりと仰せられて下さりませ。何卒何卒。」
「…………」
「斯程《かほど》に御願い申上げても、よしあし共に仰せられぬは、お情無い。私共を何となれとの御思召か、又|彼《かの》品《しな》を何となさりょう御思召か。何の御役に立ちましょうものでもござりますまいに。」
「御身等を、何となれとも、それがしは思っておらぬ。すべて他人の事に差図がましいことすることは、甚だ厭《いと》わしいことにして居るそれがしじゃ。御身等は船の上の人が何とか捌《さば》こうまでじゃ。少しもそれがしの関《あず》からぬことじゃ。」
「如何にも冷い厳しい……彼の品は何となさる思召で。」
「彼品は船の上の人の帰り次第、それがしが其人に逢い、かくかくの仔細《しさい》で、かくかくの場合に臨んだ、其時の証として仮りに持帰った、もとより御身の物ゆえ御身に返す、と其人に渡す。それがしの為すべきこ
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