の御縁に寄り、私の至情御汲取り下されまして、私めまで右品御戻しを御願い致しまする。御無礼、御叱りには測り兼ねまするが、今後御熟懇、永く御為に相成るべき者と御見知り願い度、猶《なお》不日了休禅坊同道相伺い、御礼に罷出《まかりで》ます、重々御恩に被《き》ますることでござりまする。親子の情、是《かく》の如く、真実心を以て相願いまする。」
と、顔を擡《あ》げてじっと主人を看る眼に、涙のさしぐみて、はふり墜《お》ちんとする時、また頭《かしら》を下げた。中々食えぬ老人《としより》には相違無いが、此時の顔つきには福々しさも図々《ずうずう》しさも無くなって、ただ真面目ばかりが充ち溢《あふ》れていた。ところが、それに負けるような主人では無かった。
「いやでござる。」
と言下に撥《は》ねかえした。にッたりとはして居なかった、苦りかえっていた。
「おいやと御思いではござりましょうが、何卒御思い返し下されまして、……何卒、何卒、私娘の生命《いのち》にかかることでござりまする。」
「…………」
「あの生先《おいさき》長いものが、酷《むご》らしいことにもなりまするのでござりまするから。」
「…………」
「何として
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