ろいろの世界を股にかける広い広い大きな渡海商いの世界から見ましょうなら、何人が斬れるでも無い一本の刀で癇癪《かんしゃく》の腹を癒《いや》そうとし、時節到来の暁は未練なく死のうまでよと、身を諦めて居らるる仁有らば、いさぎよくはござれど狭い、小さい、見て居らるる世界が小さく限られて、自然と好みも小さいかと存ずる。大海《だいかい》に出た大船の上で、一天の星を兜《かぶと》に被《き》て、万里の風に吹かれながら、はて知れぬ世界に対《むか》って武者振いして立つ、然様いう境界《きょうがい》もあるのでござりまするから」
と言いかけたる時、狗の鈴の音しきりに鳴りて、又此家に人の一人二人ならず訪《と》い来れる様子の感ぜらる。
此時主人は改めて大きくにッたりと笑って、其眼は客を正目《まさめ》に見ながら、
「如何にも手広い渡海商いは、まことに心地よいことでござろう。小さな癇癪などは忘るるほどのことでもござろう。然しナ、其の大海の上で万里の風に吹かれながら、真蒼《まっさお》の空の光を美しいと見て立っている時、これから帰り着くべき故郷の吾《わ》が家でノ、最愛の妻が明るうないことを仕居って、其召使が誤って……あらぬ
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