て仏道に飛込まれた彼の了休禅坊はおとなしい屈原で。」
「ハハ、ハハ。良い男だが、禅に入るなど、ケチな奴で。」
「失礼御免を蒙《こうむ》りまするが、たたき斬り三昧《ざんまい》で、今宵死んで悔いぬとのみの暴れ屈原も……」
「貴様の存分な意見からは……」
「ケチではござらぬかナ。と申したい。」
「アッハッハ。何でまた。」
「物さしで海の深さを測る。物さしのたけが尽きても海が尽きたではござらぬ。今の武家の世も一ト[#「ト」は小書き]世界でござる、仏道の世界も一ト[#「ト」は小書き]世界でござる、日本国も一ト[#「ト」は小書き]世界でござる。が、世界がそれらで尽きたではござらぬ。高麗《こうらい》、唐土《もろこし》、暹羅《シャム》国、カンボジャ、スマトラ、安南《あんなん》、天竺《てんじく》、世界ははて無く広がって居りまする。ここの世界が癪に触るとて、癪に触らぬ世界もござろう。紀伊の藤代から大船《たいせん》を出して、四五十反の帆に東々北の風を受ければ、忽《たちま》ちにして煩わしい此の世界はこちらに残り、あちらの世界はあちらに現われる。異った星の光、異った山の色、随分おもしろい世界もござるげな。何とい
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