が感ぜられて、福々爺も今はむずかしい顔になった。
「ハテ」
と卒爾《そつじ》の一句を漏らしたが、後はしばらく無言になった。眼は半眼になって終った。然しまだ苦んだ顔にはならぬ、碁の手でも按《あん》ずるような沈んだのみの顔であった。
「取った男は何様《どん》な男だ。其顔つきは。」
「額広く鼻は高く、きれの長い末上りのきつい目、朶《たぶ》の無いような耳、おとがい細く一体に面長で、上髭《うわひげ》薄く、下鬚《したひげ》疎《まば》らに、身のたけはすらりと高い方で。」
「フム――。……して浪人か町人か。」
「なりは町人でござりましたなれど、小脇差。御発明なおかた様は慥《たしか》に浪人と……」
 問わるるままに女は答えた。それを咎《とが》めるというのではなく、
「娘もそなたもそれほど知ったものに、何で大切《だいじ》な物を取らせた。」
と、おのずから出ずべき疑をおのずからの調子で尋ね問われて、女はギクリと行詰まったが、
「それがわたくしの飛んでも無い過ちからでござりまして。」
と、悪いことは身にかぶって、立切《たてき》って終う。そして又切なさに泣いて終う。福々爺の顔は困惑に陥り、明らかに悶《もだ》えだ
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