、市民が其等の勢力を中心として結束して自己等の生活を安固幸福にするのを悦《よろこ》んだためであるか、何時となく自治制度様のものが成立つに至って、市内の豪家《ごうか》鉅商《きょしょう》の幾人かの一団に市政を頼むようになった。木戸木戸の権威を保ち、町の騒動や危険事故を防いで安寧を得せしむる必要上から、警察官的権能をもそれに持たせた。民事訴訟の紛紜《ふんうん》、及び余り重大では無い、武士と武士との間に起ったので無い刑事の裁断の権能をもそれに持たせた。公辺からの租税夫役等の賦課其他に対する接衝等をもそれに委《ゆだ》ねたのであった。実際に是《かく》の如き公私の中間者の発生は、栄え行こうとする大きな活気ある町には必要から生じたものであって、しかも猫の眼の様にかわる領主の奉行、――人民をただ納税義務者とのみ見做《みな》して居る位に過ぎぬ戦乱の世の奉行なんどよりは、此の公私中間者の方が、何程か其土地を愛し、其土地の利を図り、其人民に幸福を齎《もた》らすものであったか知れぬのであった。それで足利《あしかが》幕府でも領主でも奉行でも、何時となくこれを認めるようになったのである。此等の人々を当時は、納屋衆、
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