いずれ唐物と思われる小さな貴げなものなどが飾られて居り、其の最も低い棚には大きな美しい軸盆様のものが横たえられて、其上に、これは倭物《わもの》か何かは知らず、由緒ありげな笛が紫絹を敷いて安置されていた。二人は男の眼の行く方《かた》を見護ったが、男は次第に復「にッたり」に反った。透《す》かさず女は恐る恐る、
「何卒わたくし不調法を御ゆるし下されますよう、如何ようにも御詫《おわび》の次第は致しまする。」
と云うと、案外にも言葉やさしく、
「許してくれる。」
と訳も無く云放った。二人はホッとしたが、途端にまた
「おのれの疎忽は、けも無い事じゃ。ただし此|家《や》の主人《あるじ》はナ」
と云いかけて、一寸口をとどめた。主人と云ったのは此処には居らぬ真《まこと》の主人を云ったことが明らかだったから、二人は今さらに心を跳《おど》らせた。
「実は、我が昵懇《じっこん》のものであるでの。」
と云い出された。二人は大鐘を撞《つ》かれたほどに驚いた。それが虚言《うそ》か真実《まこと》かも分らぬが、これでは何様いう始末になるか全く知れぬので、又|新《あらた》に身内が火になり氷になった。男はそれを見て、「にッ
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