どころのある奴の。」
罵《ののし》らるべくもあるところを却《かえ》って褒められて、二人は裸身《はだかみ》の背中を生《なま》蛤《はまぐり》で撫でられたでもあるような変な心持がしたろう。
「これほどの世間の重宝を、手ずからにても取り置きすることか、召使に心ままに出し入れさすること、日頃の大気、又|下《しも》の者を頼みきって疑わぬところ、アア、人の主《しゅ》たるものは然様《そう》無《の》うては叶わぬ、主に取りたいほどの器量よし。……それが世に無くて、此様《こん》なところにある、……」
二人を相手にしての話では無かった。主は家隷《けらい》を疑い、郎党は主を信ぜぬ今の世に対しての憤懣《ふんまん》と悲痛との慨歎《がいたん》である。此家《このや》の主人はかく云われて、全然意表外のことを聞かされ、へどもどするより外は無かった。
「しかし、此処の器量よしめの。かほどの器量までにおのれを迫《せり》上《あ》げて居おるのも、おのれの私を成そうより始まったろう。エーッ、忌々しい。」
眼の中より青白い火が飛んで出たかと思われた。主人は訳はわからぬが、其|一閃《いっせん》の光に射られて、おのずと吾《わ》が眼を
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