様《どう》して捌《さば》こうか、と一生懸命真剣になって、男の顔を伺った。目鼻立のパラリとした人並以上の器量、純粋の心を未だ世に濁されぬ忠義|一図《いちず》の立派な若い女であった。然し此女の言葉は主人の昨日《きのう》今日《きょう》を明白にして了った。そして又真正面から見た
「にッたり」
の木彫に出会って、これが自分で捌き得る人物だろうかと、大《おおい》に疑懼《ぎく》の念を抱かざるを得なくなり、又今更に艱苦《かんく》にぶつかったのであった。
 主人の憤怒はやや薄らいだらしいが、激情が退くと同時に冷透の批評の湧く余地が生じたか、
「そちが身を捨てましても、と云って、ホホホ、何とするつもりかえ。」
と云って冷笑すると、女は激して、
「イエ、ほんとに身を捨てましても」
とムキになって云ったが、主人は
「いや、それよりも」
と、女を手招きして耳に口を寄せて、何かささやいた。女は其意を得て屏風《びょうぶ》を遶《めぐ》り、奥の方《かた》へ去り、主人は立っても居られず其便に坐した。
 やがて女は何程か知れぬが相当の金銀を奉書を敷いた塗三宝に載せて持て来て男の前に置き、
「私|軽忽《きょうこつ》より誤って
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