りに尋ぬべし。猪牙船《ちよきぶね》の製は既に詳しく知りがたく、小蒸気の煽りのみいたづらに烈しき今日、遊子の旧情やがては詩人の想像にも上《のぼ》らざるに至るべし。米廩敷地の内の一処に電燈会社拠りて立ち、天に冲《ちゆう》する烟突を聳《そび》えしめて黒烟を揚ぐ。本所側にありては電燈会社対岸の下に当りて東に入るの小渠あり。御蔵橋《みくらばし》これに架りて陸軍倉庫の構内に入る。米廩の下、浅草文庫の旧跡の下にはまた西に入るの小渠あり。
○須賀町地先を経、一屈折して蔵前通りを過ぎ、二岐となる。その北に入るものはいはゆる
○新堀《しんぼり》にして、栄久町《えいきゆうちよう》三筋町等に沿ひ、菊屋橋合羽橋等の下に至る。この一条の水路は甚だ狭隘《きようあい》にしてかつ甚だ不潔なれども、不潔物その他の運搬には重要なる位置を占むること、その不快を極むるところの一路なるをも忌み厭ふに暇《いとま》あらずして渠身不相応なる大船の数※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》出入するに徴して知るべし。かつ浅草区一帯の地の卑湿にして燥《かわ》きがたきも、この一水路によりて間接に乾燥せしめらるゝこと幾許なるを知らざれば、浅草
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