むをもて、陽春三月の頃は水の洋※[#二の字点、1−2−22]たると花の灼※[#二の字点、1−2−22]たると互に相映発して、絶好の画趣と詩興とを生ず。特《こと》に此辺より吾妻橋上流までの間は府内各学校の生徒ならびに銀行会社の役員等の端艇競争の場となるを以て、春秋の好季には堤上と水面とは共に士女|※[#「門<眞」、第3水準1−93−54]噎《てんえつ》して、歓笑の声絶ゆる間もなく湧くに至る。
○竹屋の渡場は牛の御前祠の下流一町ばかりのところより今戸に渡る渡場にして、吾妻橋より上流の渡船場中《わたしばちゆう》最もよく人の知れるところなり。船に乗りて渡ること半途《なかば》にして眼を放てば、晴れたる日は川上遠く筑波を望むべく、右に長堤を見て、左に橋場今戸より待乳山を見るべし。もしそれ秋の夕なんど天の一方に富士を見る時は、まことにこの渡の風景一刻千金ともいひつべく、画人等の動《やや》もすればこの渡を画題とするも無理ならずと思はる。渡船の著するところに一渠の北西に入るあるは
○山谷堀《さんやぼり》にして、その幅甚だ濶からずといへども直《ただち》に日本堤の下に至るをもて、往時《むかし》は吉原通《よし
前へ 次へ
全32ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング